ハグだけの関係性が導くものは、ほんの少しの幸せを祈る気持ち。

 大学時代の友人の一人に、どこで出会っても絶対にハグをしてくる女がいた。私は男なのだが、そういったことを特に気にするでもなく、名前を呼びながらハグを求めながら近付いてきて、私はそれを全力で迎え入れていた。おそらく恋愛感情などなく、つまり、彼女とはそういった関係になったこともないし、二人で食事に行ったことさえない。ただ「大学内や街中で出会った時はハグをする」というだけの、ある意味において非常にシンプルな関係性であった。彼女は私以外の男性とハグしている姿を見たことはない。そういったことから、ほんの少しだけ、本当に僅かな気持ちだけ、ハグをしている時の周りの視線に優越感を感じていた。
 そんな彼女と、大学を卒業して以来、数年ぶりにたまたま出会った。本屋の前だったように思う。遠方から、私の名前を呼びながら近付いてきた。私はパブロフの犬的反射能力をもって、両手を広げた。彼女も当然そこに入り込んできて、久しぶりの再会を喜びあった。数年ぶりの感触というものは懐かしさを与えてくれる。よくわからない関係性であったが、腕の中に馴染むものがあった。
 彼女は結婚したらしく、幸せにやっているそうだ。あの再会からまた数年の月日が経っている。他の友人よりも、ほんの少しだけ、彼女の今の幸せを祈る気持ちは大きい。

ハグだけの関係性が導くものは、ほんの少しの幸せを祈る気持ち。